1章4話

 地下都市の道路は、街周辺以外は整備されていない。フロアの何箇所かに街があるのだが、そのそれぞれを結ぶ道筋は荒れ果てた大地となっている。レン達のいた訓練学校は街そのものが一つの巨大な街となっており、デパートなどの商業施設も完備されている。普段はその中から出る必要はないのだが、今日のような別のフロアに移動する必要がある場合には不便な場所である。
 別のフロアに移動するためにはフロアの中心にある街まで移動し、そこから超高速エレベーターを使用する必要がある。
 それとは別に、スパイダー専用のエレベーターがあの訓練学校には常備されているのだが、一般の生徒には開口されていない。

 ともあれ今、レン達は学校の敷地を抜け出し、超高速エレベーターのある街へと移動している真最中であった。
 整備されていない道は高低差が激しく、草も木も生えていないため、壮大な砂漠のど真ん中を走っている様な感覚だ。ミサオの運転するSUVは何度も車体を弾ませながら、それでもスピードは一切落とさずにもう爆走していた。

「ちょっ、ちょっと。ミサ姉さん? いくらなんでも飛ばしすぎで……うがっ」
「迂闊にしゃべると舌を噛むぞっ。あと、私の車はオープンカーなうえに、後部座席にはシートベルトがない。振り落されないようにしっかり捕まっているんだぞ」
「もう遅いですよぉ。舌、噛みました……ってか、訓練よりもきついんですけど」
 レンがそう叫ぶと同時に、傾斜を利用して車が一気に飛び上がった。
「し、死ぬうぅっ」
 

「何かと文句の多いガキだなっ」
 やっとのことで、超高速エレベーターのある街に着いたミサオのSUVは、専用駐車場に停車した。やっとのことというのは語弊がある。実際には記録的な速さでここまでたどり着いてしまったのだった。
「うっ……は、吐くっ」
 車から降りたレンは、そのまま床に這いつくばると口元を押さえた。
「情けない。スパイダー乗りが車ごときで酔っていてどうするんだ。もう一人の奴は文句ひとつ言わずにいたというのに……ん?」
 後部座席から一向に降りてこないタクマ。その様子を確認したミサオがため息を漏らす。
「どうやら、お前の方がまだましだったようだな」
 見ると、白目を]Rいて口から泡を吹く友の姿が目に留まった。
「タクマ、お前……気絶してたのかよっ」

 四人は超高速エレベーターがやってくるのを待っていた。エレベーターといっても、一般的なそれとは形状が異なる。電車のようないくつもの箱型の乗り物が横に連結されているのだが、入り口もそれに合わせて横に並んでいるのだ。今、その中の一つにレン達は並んでいる。
そして、電車と違うのはその進行方向である。電車なら横向きに移行するが、これはエレベータ。上下に移動するのだ。

「まったく、情けない限りだな。それでスパイダーに乗れるのか? 頼むからエレベータで酔うなんてマネはしないでくれよ」
「面目ないです……」
 レンとタクマはしょんぼりとした表情で答えた。司官候補生であるハルカは、こういった訓練を積んではいないはずなのだが、全然平気な様子で二人に気を配ってくれるのだが、それがまた自分達をより一層情けなく感じさせた。

 レンはすっかり自信を失っていた。今まで、訓練でスパイダーに乗っていたのだが、それは全て訓練用の仮想装置でのことだ。レン達訓練生にはまだ、本物のスパイダーに乗った経験がない。
 もしも、本物のスパイダーに搭乗して、今回のように乗り物酔いしてしまったら……。いくらミサオの運転とはいえ、本物のスパイダーはあれ以上に激しく動くはずなのだ。
 そんなことを呆然と考えていると、下りのエレベーターがホームに滑り込んでくるのが見えた。

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