SS1 4話

「しっかし、たった1人のプレイヤー相手にどんだけ奴ら、本気なのよ」
 ユウナは『連合会議棟』の外に出るなりぼやき始めた。
「ハナっからアキラが犯人だと決めつけてるしさ……」
「そりゃそうだろっ!今や『ドラゴン』は伝説的プレイヤー。4強を一人で葬ることができるような奴、他にいねぇだろう」
 ラインがそう言うと、ユウナが真顔で話し始めた。
「たしかに、タイラントを倒せるようなプレイヤーは数が知れてるわ。でも、同じ4強ならどうよ?」
「っ!おまえっ。あいつらが犯人だっていうのか!?」
「例えばね。でも、奴らなら可能だと思わない?マリアはタイラントを嫌ってたみたいだし。聖騎士だって何考えてるかわからない。それに……リズ。彼女は4強になれるっていう動機もあるしね。」
 ラインは目を丸くして驚いた。
「彼女、ユウナの友達なんだろ?それにタイラントが死んで、自分が4強に選ばれる保証なんてどこにもないんだし……」
「わかってるわ。私はあくまで可能性の話をしているのよ。」
 ユウナは真面目な表情のまま頭上を見あげた。先程まで彼女達がいた建物、その上層部は霞んでしまっているが、ユウナはその先を睨んでいた。

「ま、なんにしてもだ。『ドラゴン』が討伐されれば、アキラは現実に戻れるんだろう?良かったじゃねぇかっ」
 ラインはそっけない態度で彼女に告げた。ユウナも笑顔では答えなかった。
「……そう、ね。」
 二人は無言で黙り込んだ。

「少なくとも『ドラゴン』は、今回の犯人と同等以上の力を持っている。そんでもって、その犯人に倒されたタイラントがクリアしたクエストに、逃げ出したのが今の俺達だっ」
「はぁ。たしかにねぇ。……ライン。私達のレベルアップしちゃおうかっ!?」
「?」
 ユウナは悪戯な目を彼に向けると、「じゃあ、今日はこの辺でっ!」と言ってオフラインになる。
 ラインは彼女が何を考えているのかさっぱりわからなかった。なんにしても彼女を守るには、まだまだ力が足りない。もっと強いプレイヤーになろうと彼は密かに誓いを立てた。

 現実の世界に戻ってきたユウナは、夕食も食べずに外へ飛び出していった。
 彼女の日課を熟すためでだった。

 自宅の近所にある一軒家。新築のこの家は、ついこの間まで火事で全焼していたとは思えない程立派になっている。
彼女がインターフォンを押すと、中から元気のいい少女が出てきた。
「ユウナさん。いらっしゃい。」
「こんばんは。上がってもいいかな?」
「もちろんですよ。何を今さら……」
 ユウナは家の中へと上がると、迷うことなく2階へ昇って行った。
 そして、1つの部屋の前で立ち止まる。
「ごほんっ」
 彼女は1つ咳払いをすると、扉をノックした。
 こんな毎日を過ごせば、いつか彼が返事をしてくれるのではないか。そう願った彼女の単なる願掛けでしかないが……
 今日も扉の向こうから返事はなかった。

 きれいに整理整頓された部屋。そのベッドに横たわる彼の姿を一体どれだけ見てきただろうか……。
 ユウナはベッドに近づいていくと、そこで横たわるアキラの手を握る。
「まったく。こんなにかわいい彼女が毎日、お見舞いに来てやってんだぞっ!
 それなのに起きてはくれないのかな?きみはっ」
 残酷にも彼女の言葉に対する返事はない。いつも通り一方的な会話が始まる。

 G-navに収まった彼の体は日に日に痩せ焦げていく。
 医者の話では「もし、数年このままの状態が続いた場合、リハビリでも歩くことができなくなるかもしれない。そうなれば、彼は一生車椅子生活を余儀なくされるだろう」と告げられていた。G-naviで意識を肉体から離脱させられたままのアキラは、寝返りすら打つことがない。
 全身の筋肉をまったくと言っていいほど使っていないのだ。

「アキラ。私がどんな手を使っても、必ずこっちの世界に引き戻してあげるから……それまでもう少し辛抱してねっ!」
 彼女はそういうとアキラの頬にキスをする。
 
「ちぇっ。童話ならこうやれば目を覚ますっていうのに……あいかわらずアキラはロマンチックじゃないなぁ!」
 彼女はそう言って微笑みかけると、静かに部屋から出て行った。

「さぁっ!今日から修行クエストをはじめようっ」
「は?」
 ラインがオンラインになると、いきなり告げられた。
 ユウナはすでにオンラインになって待っていたらしく、すぐ目の前でラインの反応にご満悦の様子だった。
 
「で?いったい何を企んでんだよっ?」
「なによ。なんにも企んでませんよーっ!単純にコンビネーション・スキルを習得できるクエストを見つけただけよ」
「そんなご都合的なクエストがあるんですかっ?」
 ユウナは鼻を鳴らすと、得意げに説明する。
「それがあるんだよなぁ。これをやりましょう!」
 そう言ってユウナが情報をラインに向かって送り付ける。

≪カップル推奨!2人で楽しくコンビネーション・スキル、学んじゃおう!≫
 というタイトル。そのすぐ下に推奨レベルと報酬が表記されていた。
≪推奨レベル:10Lv以下 報酬:うさんこストラップ≫

「……おまえ、絶対に報酬が目当てだろっ!」
「ち、違うよ。『北海道のどさんこ』と『うさちゃん』がコラボとか全然興味ないよっ!」
 ユウナが必死に否定する。その様がますます怪しい。

「しかも10レベルって、どんだけ初心者向けのクエストやらせる気だよっ!」
「うっさい!いいのよ。なんレベル向けだろうが、私らにはコンビネーション・スキルが必要なのっ!!」
 ラインは深くため息をつく、だがその内心はカップルという響きに心昂ぶっていた。

 
 2人は『ウィーバーアイランド』という田舎風の街に来ていた。
 ここは比較的レベルが低く、滞在しているプレイヤーもあまりレベルの高そうな装備をしていなかった。逆に完全武装した彼らの方が目立ってしまっている。
「ちょっとこの恰好は恥ずかしいな。軽装でくりゃあよかったぜ」
 ラインは周りの視線を気にしながら歩く。その隣には、ただでさえ目立つ容姿のユウナがいる。彼女は周りの視線を全然気にしていない。

「で?どこでそのクエスト受けられるんだよ?」
「あそこみたいね……」
 ユウナが指さす方へラインは顔を向ける。
「…………おい。あそこって、あの山の上ですかぁっ!?」
 田舎の街並みから覗く、広大な山々のてっぺんを指さした。
「さぁ。行きましょうか。ね、行くだけでもいい修行になりそうでしょ?」
 意気揚々と歩き始める彼女にラインはため息をつくと、仕方なしに付いていった。

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